インプラントの安全性について

僕は大学院を卒業して所属していた講座でインプラントの研究室を任されたことがあります。

その頃は日本においてようやくオッセオインテグレーション型(インプラントと骨が直接結合するタイプ)のインプラントが定着しようかという時でした。

それまでは様々な試験段階のようなインプラントが国産、外国製問わず使われており、失敗に終わるケースも多かったのですが、このオッセオインテグレーション型のインプラントの登場により成功率は飛躍的に高まったのです。

現在では全世界中でこれしか使われていないといっていいでしょう。

僕が医局にいた頃、今から20年前にすでに30年経過症例がそのインプラントの開発者であるブローネマルク教授の元にあったので、もう50年の実績があるわけです。

ですから、安全性に関しては全く問題がない、と言いたいところですが実際のところはわかりません。

もちろんインプラントそのものによる為害性などは報告されてはいませんが、何といってもアレルギー性が非常に低いとはいえチタンという金属を加工して生体内に埋め込むわけですから、本当のところはまだ明らかでないというのが正しいのでしょう。

もちろん生体安全性に関する研究は山のようにあって、問題なしとなっているからこれだけ普及しているんです。

それにそんなこと言ったら整形外科で骨折の治療なんか受けられないですね。

あくまでも厳密に言えばということで、それが引っかかる人はおやめになった方がよろしいでしょう。

インプラントって本当にいいの?

噛める噛めないということでいうなら、入れ歯に比べれば格段にいいです。

健康な自分の歯で噛む力と比べて、入れ歯は10~20%しかでないことがいくつもの研究で報告されています。

インプラントなら自分の歯と同じかそれ以上の力が出ます。

それに、歯がなくなった時に通常用いられるブリッジや入れ歯と比べると他の歯に全く余分な負担をかけないという点が何より優れています。

長い目で見れば、従来の方法だと負担を強いている歯が必ず弱ってくるからです。

先ほどインプラントは自分の歯以上の力が出ると書きました。

自分の歯の場合は、骨と歯の根との間に薄い靭帯が存在します。

ところがインプラントの場合は骨と強固に直接くっついているために、それだけの力が出るわけです。

ただし、その靭帯は根の周りで様々な有益な役割を果たしているので、逆に言うとインプラントにはその天然の防御機構が備わっていないとも言えるのです。

さて、それだけ強い力が出るインプラントですから、下手をすると噛み合う相手の歯を痛めてしまう可能性だってあるのですね。

 

これは非常に重要なことですからよく聞いてください。

インプラントをする上で最も大切なこと、それは治療計画にあります。

いくらインプラントが成功しても、10年後にインプラントだけ残って他は全部抜けてしまっては意味がありません。

インプラントを考える際に、もちろんそこで他の歯をさわらずによく噛めるようになるというのは大事なのですが、それ以上にその時点で残っている他の歯も長持ちするように働いてくれないと困るわけです。

要するにすべてのバランスの中で、長期的にインプラントが口の中の健康を長く維持するのに役立つかどうか、これであります。

抜けた部分だけをどうしようかという近視眼的な感覚ではいけませんよ。

またそのようなスタンスの歯科医は避けた方が無難です。

抜けているところ以外にグラグラしていてそのうちどうなるかわからない、でもその歯は抜きたくないというのであれば、そりゃもう絶対に入れ歯です。

そんなところにインプラントしちゃダメですって。

インプラントは治療単価が高いため、残念なことですが良い意味でも悪い意味でも医院の経営戦略の重要な武器として位置づけられています。

 

でも正直なところを言って、ずっと入れ歯で悩んでいた人がインプラントにすると、これはもうとてつもなく喜ばれます。

二度と入れ歯に戻れないとおっしゃいます。

入れ歯の経験が全くなく、初めて歯が抜けたところにインプラントを入れた場合、患者さんは自然に噛めてやはりハッピーになられるようです。

インプラントって怖くないの?~手術と合併症について~

インプラントが怖いという理由だけで、インプラント治療を全く考慮に入れない患者さんが少なくないのは非常に残念なことだと思います。

特に男性は怖がりですね。女性の方が肝がすわってらっしゃいます。

やはり出産経験の有無は大きいのでしょう。

患者さんが怖いというのを僕たちはどうしようもありません。

怖くないですよと言ったところで本人は怖いからです。

しかしながら、実際問題インプラントの手術を終わられた人の感想はその多くが「思ったより怖くなかった」です。

これは非常に単純な手術で終る場合で、非常に時間もかかって大変な手術もあるので一概には言えません。

でも大変というだけで、怖いというのとは別物だと思います。

医院によれば静脈内鎮静法といって一種の軽い精神安定剤を用いながら手術をするところもあります。

当院でも過去一度だけマイナートランキライザーを服用してもらったことがあります。

これも正直申しまして、手術中の不快感ということで言うなら骨の中に埋まっている下の親知らずを抜く方が大きいみたいです。

痛みと腫れについては、手術中はもちろん麻酔をしていますので痛くないはずです。

ただ手術時間が長引けば麻酔が切れてくるので、その時には追加をします。

僕の経験でも手術の後半で痛みを訴えられる方が数名いらっしゃいました。

術後の痛みについては、これも経験上皆無とはいいませんが、ほとんどないか、想定内の痛みのようで頓服を一回飲めば治まる程度のものみたいです。

腫れについては、ここではっきり申し上げておきます。

骨が十分に残っていて、ただインプラントを埋め込めばいいだけの場合は原則として全く腫れません。

ところが歯を抜くような状態ということは、その周りの骨がやせて少なくなっていることが多いため、インプラントと同時に骨の移植や再生治療を行うことがあります。

今ではむしろそれをやらないことの方が少ないのじゃないでしょうか。

そうしますと、傷口を完全に閉鎖するためと、骨の再生のための栄養源としてあえて出血を促すようにするために必ずと言っていいくらい腫れます。

それも結構な量、腫れます。

この場合の腫れというのは化膿してるんではなく内出血なんですね。

でもこれは術前に予想されるので、前もって患者さんにお伝えしておきますし、3,4日腫れても問題がないような手術日を選んで頂きます。

合併症について

次に合併症についてですが、まず現在ほとんどの歯科医院ではインプラントをする前にCTを撮影するはずです。

よほど簡単と分かっている時以外は、当院でも少し離れた病院に撮影を依頼します。

それによって、残っている骨の量と必要とされる骨の量を勘案し手術術式を決定していくわけです。

また神経や血管などの解剖学的に危険なエリアを確認しておきます。

それほど気をつけていても、あってはならないことですがトラブルが起きる事があります。

様々なトラブルが考えられますが、その際大切なのは歯科医の保身ではなく、まず患者さんの体のことでなければなりません。

ここを履き違えると、それこそ訴訟にまで発展します。

必要な医療機関に依頼して、プライドも何も関係なく真摯に対応することが望まれます。

当院でも過去お一人だけ、下顎のインプラントを3本埋め込んだ時にそのうちの1本が神経を圧迫したことがありました。

当時のCT画像は粗くて鮮明でなかったため、常には撮影をしていませんでした。

現在は非常に鮮明な画像になっています。

さてその原因は骨の頂上から神経までの距離に比べて、埋め込んだインプラントが少し長かったようなのです。

口唇のマヒが出たため、その時点でCTを撮影依頼し、原因となっているインプラントを撤去しそれより少し短いインプラントを再度埋め込みました。

時間はかかりましたが(およそ半年くらい)、口唇のマヒはほとんど消失しました。

こういうことを避けるために、避けられる事故を避けるために、もはやCTは必須と言えるでしょう。

インプラントはどれくらいもつの?

これもよく聞かれる質問ですね。

逆にお聞きしますが、インプラントすることになるということは自分の歯を失ったわけです。

じゃあ元々きれいだったその歯は、どのくらいもったのですか?

まあ、要するに今ある自分の歯を一生もたせるように努力されるならばインプラントも同様に考えて頂いて結構ですということです。

普通に手入れをして頂いて、数か月に一回は歯科医院でメインテナンスを受けて頂いていればまず問題ないでしょう。

たとえ寝たきりになられても、この原則は変わりません。

自分の歯が健康な状態であればインプラントも健康であると思われます。

定期検診は必須です。

だって、あなた人工心肺入れてる人が病院で定期的なチェックを受けなければどうなりますか?

何が起こっていても責任とれないですよね。

これは何もインプラントに限ったことじゃなく、自分の歯を大切にするためには歯科医院での定期的な検診は欠かせないと言えるでしょう。

 

ただし、例外があります。

インプラントをする時点では体調に問題がなかったけれど、その後重度の管理されていない糖尿病にかかるとか、悪性の腫瘍にかかるとかすると、これはダメになることがあります。

あとは噛み合わせのバランスが微妙に崩れてきて、あるインプラントに集中的に力がかかるような状態になるとインプラントの周りの骨がダメージを受けてダメになることもあります。

当院ではそれぞれお一人ずつそういう方がいらっしゃいました。

一人は叔父で血液の癌で亡くなりましたが。その時インプラント自体は骨の中にきちんとありましたが、その数カ月前の検診では周りの骨が溶けてきている状態でした。

もう一人はインプラントの周りが膿んできて、やむなく撤去せざるを得ませんでした。

これは本当に正直に申し上げているのですが、当院でのインプラントのトラブルの大きなものとすればこれだけであり、僕が施術したインプラントの総数に比べればかなり少ないわけです。

どんな優秀なインプラント専門医にかかったとしても、10年成功率が100%ということはありません。

研究データとしておよそ97~98%の成功率であると報告されている事実なのです。

インプラントって高くない?

だからどの歯医者も一所懸命やるんでしょうけどね、儲かるから。

冗談はさておき、自費の治療費の決定法は各医院によって千差万別です。

ですから一概には言えないのですが、基本的にはかかる経費により左右されます。

田舎と銀座じゃ家賃も違うでしょうし、人件費だって格段の差があるでしょう。

また安全により自然な結果を求めるがゆえに、様々な器械や材料を駆使すればそれだけ手術代は高くなります。

いろんな要素があるのですが、今の世間の相場をお話しましょう。

大学病院のホームページを調べてみました。

するとHPで自費の料金のことを書くのは問題があるのかしれませんが、あまりのってないんです。

その中でも明記されていたのは、名古屋大学医学部付属病院の歯科口腔外科で

インプラント埋入手術:1本当たり 189、000円

インプラント上部構造(かぶせもの):1本当たり 231,000円

また我が大阪大学歯学部付属病院は

術前検査 6万円前後

インプラント1本当たり(手術料、かぶせもの込) 約45万円

2本なら  約75万円

3本なら  約100万円

となっています。 (いずれも平成22年9月現在の料金)

どうですか?国立大学の付属病院ならもっと安いと思われませんでしたか?

およそ、これが相場でしょう。

普通の開業医ならすべて込みで30万~45万というところだと思いますが、その幅は先に述べたようにかかる経費によります。

ただし、1本10万円(手術料のみ)というのを売りにしている歯科医院もあります。

そこは薄利多売主義で、それだけの手術件数があるからその値段で十分やっていけるということらしいです。

これもひとつのやり方でしょう。

通常自費の治療費には少なくとも5年間くらいの保障費も含んでいることが多いと思われるので、そのあたりのこともよくお考えになりよく歯科医とご相談の上決められた方がよいですね。

値段のことを詳しく聞くのは決して恥ずかしいことではありません。

むしろ十分納得して頂くことの方を僕たち歯科医は好みます。

 

またこれらはあくまでも単純なインプラント手術の場合であり、骨を増やすなど特殊な術式を伴う場合には、それにプラスαが生じますし、それが決して安くありませんので十分説明をお聞きになってくださいね。

僕は現在幸いにしてすべて自分の歯であまり治療痕とかもないのですが、仮に歯を失えばどうするかというと、とりあえずはMTコネクターというのを試してみてその噛み心地を知った上で、以前勤めていた広島の歯科医院の院長にインプラントをやってもらうかな。

その方が患者さんの気持ちがわかるでしょうから。

 

どこでインプラント治療を受けたらいいの?

現在、〇〇インプラントセンターという名称の歯科医院が乱立状態でして、正直迷ってしまうところでしょう。

ただし、確かにそういったところはインプラントを専門にやっておられるので信頼性は高いですが、だからといって〇〇歯科医院が劣るというわけではありません。

そういったところにもスーパーデンティストのような方がいらっしゃるからです。

これははじめの項でも述べましたが、あなたがどんな縁を引っぱってくるかというのにかかってますので、何とも言えませんね。

ここでもやはりホームページとかを参考になさるしかないようです。

ただしそこではまあ、いいことしか書いてないですけど。

僕が書いてるようなぶっちゃけたホームページというのは非常に稀なんですよ。

だって、これ全然「ならまちワンネス歯科」のイメージアップになってませんからね(笑)

 

まとめ

僕は最近ブリッジでさえも良くないと思うようになってきました。

何年かすると支えている歯が力がかかり過ぎて割れてくることが多いのです。

これは他の多くの歯科医も経験していることです。

ですから歯を失った時に、もしいらない親知らずがあるのであれば自家歯牙移植を第一選択とします。(自分の親知らずを抜いて、歯がないところに移植する)

あとは他の歯の状態と患者さんの希望を考慮してMTコネクターかインプラントかですね。

よく言われることに、「友達にインプラントのことを聞いたけれどすごく痛くて腫れて大変だったそうです」というのがあります。

結局その方は自分の中で、どちらかと言えばやりたくないなあ、怖いなあと思っているので、そういった友達の意見を重視してしまうのですね。

良識ある歯科医ならきちんとニュートラルなスタンスで相談にのってくれるはずですし、無理やりインプラントをしてお金を引き出そうなんて考えません。

そこであなたに歯科医が語ることは全部本当のことなんです。

だって、かなりの数の経験に裏打ちされているからで、そのお友達の意見はごくごく一部の限られた見方にすぎません。

もちろんそれが嘘だというわけじゃないですよ。

また、僕の知る限りどの歯科医も非常によく勉強し研鑽をつまれているので、あなたがこの先生なら大丈夫と思われるのなら大丈夫なのだと思います。

もう一度、基本的な話に戻りましょう。

あなたはいったいどうなりたいのか?

これを元に自分の直感を信じてくださいね