義歯の噛み合わせ ~歯科医療の可能性~

今朝、探していた僕の赤い靴下の片方が見つかりました。

僕の部屋にある座蒲(ざふ、座禅用の座蒲団)の下に隠れていたそうです。

噛み合わせの話は続くのですが、嫁さんにくどいと言われたので、原稿は出来上がっていたにもかかわらずアップするのを控えてました。

 

かつて僕は特殊なマウスピースで身体の不定愁訴を治そうとしていたことがありました。

いろんな経緯があり、そのうちそういう治療はやらなくなりました。

咬合のことを常に念頭に置きながらも、淡々と普通の歯科医であろうと考えました。

「噛み合わせの治療をして頭痛とか肩こりとかを治しましょう」 みたいな歯科医は嫌だと思ったのです。

そこを目標にはしないけれど、治療の結果としてそういうものが緩解すれば良いな、くらいのことです。

そして今、ふたたび噛み合わせのバランスをとることによって身体の健康に寄与しようと考えるようになりました。

それには理由があります。

 

大阪歯科センターにMTコネクターの見学に行き始めてもう2年近くになります。

MTコネクターとは非常によく考えられた精密義歯ですが、それを入れたからといって良く噛めるわけでも身体が健康になるわけでもありません。

そのためには、それを活かすだけの歯科医師による噛み合わせの調整が必須なのです。

そうでなければMTコネクターはその性能を十分に発揮しないでしょう。

単にバネのない入れ歯というだけに堕してしまいます。

だからこそ僕は歯科センターの宮野氏にくっついて、氏の調整法やその他諸々を見学(時に実際に調整させてもらえることもある)するのです。

僕は最近ようやくその調整法を体得してきましたが、そうしますと臨床的にもそれに伴った結果が出てきます。

 

ここで少し歯科界における義歯の講習会の話をしておきましょう。

大学で勉強するだけでは当然役に立ちませんから、卒後さまざまなセミナーを受講することになります。

僕もずいぶん受けましたし、11月から新たに松本勝利先生の6か月間コースというのを受けます。

それほどに義歯は奥が深いし、おもしろい。

総義歯というのは歯が一本も残っていないわけですから、歯科医が患者さんの噛み合わせをすべて決めることになります。

それが間違っていれば即、義歯が安定しない、粘膜が痛んだり傷を作ったり、うまく噛めないなどという症状として返ってきます。

患者さん固有の噛み合わせの決め方というのはどのセミナーでも教えてくれます。

その内容は千差万別ありますが、とりあえず教えてくれることは教えてくれるのです。

 

と・こ・ろ・が

僕の知る限りにおいて、細かな噛み合わせの調整の仕方を教えてくれるセミナーは存在しません。

義歯を装着して次の来院の時に、患者さんが色々と不具合を訴える。

その訴えを聞いて(ほとんどの原因は噛み合わせにあるので)、どのような噛み合わせの不調和が考えられるのかすぐ頭に浮かぶ歯科医は少ないと思います。

偉そうに言ってますが、僕も歯科センターで勉強するまでは、そんなにひどくはないけど、わかりませんでした。

 

例えば、右目の奥が痛いとか、最近動悸がするとか、自分の声がこもって聞こえるとか言われた時に、入れ歯の噛み合わせの不具合を疑う歯科医は少ないです。

ましてや実際にどの部位の噛み合わせの不調和がそれを引き起こしているのか診断して調整するなんて出来るわけがありません。

 

義歯を入れて半年後に定期検診に来られた(総義歯であっても定期検診は必要です)

患者さんは良く噛めて満足そうである。

しかし噛み合わせをチェックすると、どうも偏って摩耗しているところが見られる。

「最近、首の後ろの右側が痛くないですか?」

「え、どうしてわかるんですか?それって入れ歯と関係あるんですか?」

という具合なのですが、定期検診の時に義歯のどこを見て、どのように調整するべきなのか、あるいはしなくても良いのかということを教えてくれるセミナーは日本全国探してもどこにもないと言って良いと思います。

 

入れ歯名人と呼ばれる歯科医でも、入れ歯が安定して、痛くなく、よく噛めて、審美的にも問題ないというレベルの仕事をしているのであり、身体との関連性で見ている人は非常に少ない。

関係していることはわかっていても、具体的なアイデアがない。

それが宮野氏の頭にはあるのです。

だっから飽きもせずに行くのね、僕。

氏が20年、30年かかって会得したものを、1,2回話を聞いたり見学をしただけでわかるわけがありませんもの。

 

その患者さんの骨格と筋肉を考えて噛み合わせを決め、その噛み合わせが実際の動作の中でうまく機能するように調整する。

それが上手く出来ていればいるほど、その後患者さんの身体は変化していきます。

歪みがとれてくるわけです。

身体の歪みが取れて元に戻ろうとしているのに、噛み合わせは最初に決めた状態のままではうまくいきません。

変化した身体に合わせて調整してあげる必要があります。

すると身体はもひとつ歪みが取れて健康になっていきます。

もちろん、ある日庭仕事を一日やったら一時的に身体は歪みます。

しばらくして身体がそのまま戻ればいいんだけど、そうでない場合は噛み合わせを調整してあげます。

実際に自分の治療により、患者さんがどんどん健康になっていくのを見ていると、嬉しいというよりは噛み合わせと身体の健康の深い関連性について、益々真摯に考えなければいけないと思うようになります。

 

一般の人にはそのような認識はほとんどないでしょう。

それはそういう情報に接してこなかったということもありますが、歯医者に行って健康になったという経験がないというのも大きい気がします。

これについては前回も述べた通り。

僕もこと保険治療に関してはまったくもって偉そうに言えません。

なので最近は極力歯を削らない、余計な治療をしないようにして、クリーニングを主にするようになってきました。

あとはペチャクチャしゃべるとかね(笑)

でもね、多くの病気の原因が誤った生活習慣にあるのであれば、そこを見つけて指導するというのは当然だし、治療そのものよりも大切かも知れません。

 

これからの高齢化社会で重要なのは、”健康で長生きする”ということです。

ピンピンコロリ、昨日まで元気やったのに今日老衰で死んじゃった、みたいにいきたいものです。

少なくない老人が合っていない義歯のせいで、体のバランスが保てずによくこけ(転び)ます。

骨折して寝たきりになり、食べられなくなってボケて死んでいく。

これが現状ではないでしょうか?

義歯がきちんとしていれば、こけない(にくい)のよ。

今、通院中の患者さんでこけて骨折して入院してる間に噛み合わせがメチャクチャになってしまった人がいます。

その方にきちんと義歯を入れて調整していくと、知らない間についていた杖がなくなってる。

先日も御主人とあちこち歩き回ったそうでして、先ほど来院された時に立ち姿や歩き方を見たら、噛み合わせ治療が必要だった人だとは到底思えない。

そのくらい普通の状態に戻っています。

で、今日はその患者さんに何を指導したかというと、足と靴と歩行の関係について。

そして当院の近く(元興寺そば)にある靴職人さんの所へ行って良い靴を一足つくってもらったら?ということでした。

 

もう一人、比較的若い女性で杖をついていた方がいらっしゃいました。

2年前に治療して(噛み合わせ治療ではない)、その時に色々お話をしたのですが(ヒーリングはしたかどうか忘れました)、僕は最後にこう言ったのです。

「〇〇さん、僕にはね、5年後にあなたが杖をついている姿は見えない。絶対に大丈夫です」

「そうでしょうか・・・・」

でね、最近お越しになった時に見たら、普通に歩いてはるわけです。

これは僕の治療とはまったく無関係なんですが、こういうこともあったという話。

 

咬合治療を謳っている歯科医がよく言うことなんですが、その場で患者さんが何年もついていた杖が不要になり元気に歩いて帰られましたとか、車椅子の人が立って歩き出した、みたいな体験談ね。

ヒーリングをしてもそういうことがあるかもしれない。

でも、これはかえって危ないんです。

だって、身体の筋肉や関節は杖をついて歩くことに何年も慣れているわけです。

その場は感動的でいいかもしれないけど、あとでエライことになる可能性大。

身体の変化というものは、例え健康方向に向いていたとしても、急激であってはならないと思うのです。

 

長年の腰痛についにたまりかねて手術に踏み切った患者さん。

痛みは無くなったけれどまだ急な動きが出来ないなどの機能不全があります。

この方、左下の奥歯二本が抜けていて義歯を作ったけど入れていない。

こんなもの整形外科医にまともな歯科の知識があれば、まず最初にその部分の歯科治療です。

インプラントでもよく合った義歯でも構わないので、それが最初に来るべきで、そうすれば手術しなくて済んだ可能性だってある。

これが現状であり、非常に嘆かわしいことです。

 

まだまだ続くよ、噛み合わせと健康の話。

こういったことを中庸なスタンスで話す歯科医は少ないです。

皆、自分の持論を振りかざします。

ここ数日のブログを読んだだけで、皆さんはその辺の歯科医よりよほど身体についての理解を深めることになるでしょう。

2012.9.5

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「義歯の噛み合わせ ~歯科医療の可能性~」2件コメント

  1. 老いた若造 より:

    いつも楽しみに拝見しております。
    私の友人の歯科医も約20年ほど前、咬み合わせの重要性を協調しており、二足歩行の人間が歯科治療でバランスを崩し疾患の誘引要素となる旨の説明を受けました。
    俄かに信じがたい内容でしたが、私も調整してもらいました。
    彼はいま、とっても痛い治療(患者にとって)を行っており、患者数を減らしております。
    誰でも痛いのは嫌ですから。
    奥様は医院経営を心配して私に相談します。
    私は彼の顧問税理士をしておりまして、経営者としてアドバイスすべきか、彼の純粋な医療方針を応援すべきか?
    奥様には彼の医療方針を応援して励ましてやってほしいと伝えました。
    税理士としてBESTな回答だとは思いませんが、かれの医療従事者としてのスタンスは素直に応援したいと思います。
    私も専門職としての理想は追求したいと思うのですが、現実はキビシーです。
    ○島君がんばれ!

  2. Dr.KAPPA より:

    老いた若造さん、コメントありがとうございます。
    その系統でとても痛い治療というのは、仙骨治療でしょうか。
    骨の歪みというのは、筋肉により引き起こされます。
    骨が勝手に動くことはありません(あくまでも常識的には。本当はあり得るかもしれない)
    筋肉のアンバランスを治すときに痛みを伴う治療法は、僕は?と思います。
    筋肉は本来優しく扱うべきだからです。
    だからこそヒーリングで身体が治ったりするんですね。
    ご友人の治療法について詳細を知らないので、それを否定しているわけではありませんよ。
    あくまでも一般論です。
    院長の方針と経営についてはブログの方で書きます。

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