インプラントと噛み合わせ ~真実を見ようよ~
なんの笑いもない「おまえ、真面目な歯医者か!」と言いたくなるような内容が続きますが、健康を考える上で非常に大切なことなので、もう少し続けます。
笑いはありません。
今思いだいましたが、そもそも僕は真面目な歯医者やったんです(過去形?)
自分の歯であろうが、被せ物であろうが、義歯であろうがバランスよく擦り減ること。
これについて少し詳しく説明しておきます。
上下の歯が噛み合う際に、どこか一カ所が高いとしましょう。
これがずっと続くとどうなるか?
高い部分がしょっちゅう当たる状態だと、そこのエナメル質が欠ける、歯が少し動揺する(靭帯が弛緩する)、知覚過敏が起きる、といったことが誘発されます。
これを攻撃パターンと呼びます。
しかし、無意識のうちに高い部分を避けるように噛むようになる、そのような運動パターンが出来あがることも多く、こちらの方が問題はややこしくなります。
これは逃避パターンと呼んでいます。
普段の自然な身体の動きのパターンをいきなり変えたらどうなるでしょう?
靴の中敷きに小さな石ころが入ったとしましょう。
これに攻撃パターンをとる人はいません。
石ころをつぶそうとして、足をグリグリやりながら歩く人などいないのです。
その部分が当たらないように足の裏を浮かせ、その結果いつもと違う筋肉が緊張して、違和感を感じながら歩くようになります。
普通はすぐに靴を脱いで石をとりますが、この状態で1時間も歩いたら腰いわします。
何日もそのままなら、身体全体が歪むようになり、その結果、靴の小石が原因とは思えないような部位に想像もつかないような異常をきたす可能性があります。
噛み合わせも同じことなのです。
下顎が逃避パターンをとる時、通常は高い部分を対角線方向に逃げることが多いです。
その場合、逃げた先の歯が攻撃を受けることになり、そこに問題を起こすことも実は非常に多いのです。
僕は患者さんが異常を訴える歯を診察する際に、必ず反対の対角線上の歯の噛み合わせをチェックします。
これ、常識。
下顎のわずかな運動軌跡の変化がなぜ重大な歪みを引き起こすかというと、上に重たい脳を入れた頭があるからなのね。
わかりますよね?
重たいものの下にあるものが、その位置を変えただけでも全体のバランスが崩れるのは当然ですし、ましてやそこに運動エネルギーが加われば尚更です。
これが噛み合わせと身体の健康との深い関連性についての明快な説明。
体幹を構成している関節ってみなしっかりしてるんです。
ところが、顎の関節だけは非常にデリケートでありまして、すぐにおかしくなる。
だってね、身体中どこの関節を見ても顎関節ほど大きく複雑な動きをするところってないわけ。
おまけに関節というのは原則としてきちんと長軸方向に圧迫されています。
頸椎とか脊椎とかそうでしょ。
牽引されるような力がかかるのって他にないんじゃないかしら。
顎関節というのは小さく動いている時は回転運動、大きく動くときはそこに滑走運動が加わります。
これも他には見当たりません。
関節が滑るわけですからね。
肩甲骨は大きく滑走しますが回転は少ないでしょう。
自然体でいる時、身体の各関節は適度な圧で接しています。
ところが顎関節の場合、カチッと噛むことにより受け口である頭蓋骨の関節窩と呼ばれる所に圧接されるのです。
噛み合わせのバランスがとれていないと納まりが悪いのです。
ということはその影響で頭蓋骨の変形や血行不良なども起こし得るということ。
身体の司令塔である脳が正常に作動しなければ、身体のどこにどんな異常が起こるかわかりません。
以上のことから、いかに被せ物も含めた歯の噛み合わせのバランスが大切かお分かりいただけましたでしょうか?
擦り減り方が違うようになれば、部分的に高い所ができるわけで、身体にとって大変よろしくないわけです。
歯科治療上、完ぺきに理想的な材料というのは存在しませんが、日進月歩で改良されてはいます。
先の理由により、色んな種類の材料が口の中で混在しているというのは避けるべきでしょう。
特に上下の噛み合う歯同士は、セラミックとセラミック、金属と金属というふうに同じでなければなりません。
さて、いよいよインプラントの抱える最大の問題点です。
インプラントの一般的な問題点としては以下のようなものがあります。
①基本的には生体にとって異物であるものを半永久的に顎の骨に埋め込むことの生物学的な妥当性
②本来、顎骨と口の中は遮断されているものなのに、インプラントがそこを貫通していることの生物学的妥当性
③天然の歯とその周囲組織にあるような自然治癒力が欠如していること
④天然の歯根周囲にある歯根膜と呼ばれる靭帯がないために、噛む力に対する緩衝作用が効かない
⑤電磁波を集める可能性があり、それにより体調不良を起こすかもしれない
そして僕はここに6番目の、今後最も大きな問題となるかもしれない点について説明します。
インプラントにセラミックの被せ物をつけた場合、よく割れたり欠けたりします。
これはもう、どの歯科医も本当に悩みの種というくらい起こります。
その理由は、上に書いたように天然の歯根に備わっている靭帯が存在せず、インプラントが直接骨と結合しているためで、クッションが効かないのです。
コンクリートの上に陶器のお皿を置いて、上から木づちで叩いたら確実に割れます。
でも、クッションのきいたマットの上ならどうでしょう?
ということです。
インプラントに人工の靭帯を持たせることは今のところ成功しておりませんので、歯科界の流れとしてはセラミックの強度を上げるようになってきました。
特にジルコニアと呼ばれるものは、ちょっとやそっとじゃ壊れません。
骨と直接くっついていて、噛んだ時に一切緩衝作用が起こらないインプラントに、これまた非常に強固な被せ物を入れたとしたらどうなると思います?
他の歯や被せ物はそれぞれ今後何十年にわたって徐々に擦り減っていくわけです。
その中で一カ所絶対に減らない歯がある。
こんなものそこを支点として下顎の位置がずれていくに決まっています。
ここなんですよ、問題は。
要するに身体の歪みとなって現れてくる可能性があり、患者さんはよく噛めると言って喜んでいるため、歯科医はそこに気づかない可能性があるということです。
ではゴールドだとどうか?
よく奥歯にはゴールドが一番生体に優しい擦り減り方をすると主張する歯科医がいるのですが、ケースバイケースであり、患者さんによっては柔らかすぎて擦り減り方が大きな弊害を生むこともあります。
保険診療で使用される金銀パラジウム合金などは、そのアレルギー誘発性、耐腐食性の低さ、合金として口に使うには少々硬すぎる等の点から正直言って論外です。
でも、それしか認められていないので仕方がないのが現状。
これは今という社会情勢での話で、国民皆保険が実施された何十年も前であれば上のことは贅沢で厳しすぎる意見だということはお断りしておきます。
ところで、”ならまちワンネス歯科”はインプラントにも精密義歯にも力を入れております。
結局、インプラントも含めて噛み合わせを一生にわたり安定させるにはどうしたら良いのでしょうか?
長かったこのテーマも次回が最終。
すべてを総括します。
何度も申し上げますが、ここに書いているような内容が学会において真摯に論じられることはありません。
2012.9.8