最初にお金のことからお話しましょう。

保険診療の場合、ひとつの入れ歯を型採りから装着するまで歯科医に支払われる報酬は全部でおよそ33000円です。

その入れ歯を作るのに技工士さんに歯科医が支払う技工料は、うちの医院で約13000円です。

よって利益が2万円ということなのですが・・・・。

入れ歯の値段

次に平均的なテナント開業の歯科医院の経費を考えてみましょう。

家賃 30万円

受付、助手各一人の給料 各20万円

歯科衛生士一人の給料 25万円

水道光熱費、電話代 3万円

合計  98万円

診療日数20日として1日の経費は4万9千円

1日の診療時間が8時間として、1時間当たりの経費6,125円

 

あとは入れ歯を作って患者さんが痛くなく噛めるようになる調整も終了するまでにどれだけの時間を費やしたかが問題になります。

利益の2万円から、1時間当たりの経費6,125円×かかった時間=純利益

色々試算してみてわかったのですが、このかかった時間を少し変えただけで結果はものすごく変わるのです。

ですから多くの歯科医が言うように一概に保険の入れ歯は赤字だとも言い切れない面があります。

ただ、おわかりのように時間をかければかける程、赤字になっていきます。

時間をかけなければそれなりの利益はでます。

 

入れ歯の治療が下手な歯科医がすごく時間がかかってしまった場合、利益は少ない。

入れ歯の名人がやっても難しく時間がかかることがあり、その時も利益は少ない。

入れ歯が下手な歯科医が適当に治療をすれば利益は大きい。

ただし患者さんが満足するような入れ歯はできないでしょう。

入れ歯の名人がスムーズに治療できるケースでは患者さんも満足し、利益も大きい。

 

結局、一言で保険の入れ歯は儲からないとは言えないのですが、上の経費の試算はかなり少なめに見積もっている上に、歯科医が抱えている毎月の借金の返済額(通常30~40万くらいはある)も省いてあります。

ですから、どちらかと言えば利が薄い傾向にあるとは言えるでしょう。

 

これが自費の入れ歯になると、一般的な技工料金はおよそ4万から5万円位でしょう。

それに対する歯科医が患者さんに請求する金額は20万から30万だと思います。

もちろん、医院により差はありますし、そもそも技工料金が何十万もするところだってあります。

自費の入れ歯になると、普通は非常に時間をかけて患者さんにピッタリ合うように治療を進めていきます。

特に長年合わない入れ歯を使っておられた患者さんの場合、いきなり本義歯を作ってもうまくいかないことが多いので、まずはリハビリ用の治療義歯を作ります。(これについては後述します)

そのリハビリ用の義歯を使いながら、何度も細かい調整をしてお口の状態を整えていくわけですから、その調整にも多くの時間を使います。

これらがすべて治療費の中に入っていますので、単純に入れ歯がひとついくら、というような商品を売っている感覚ではないのです。

もうこうなると、入れ歯を作るという感覚ではありません。

ひとつの人工臓器を拵えていく。

患者さんが「何でも噛めます。ありがとうございます」と笑顔で言ってくださるのを目標とするわけです。

 

保険で本当に良い入れ歯など出来るはずがない。

だからといって適当なものを作って良いはずもない。

ゆえに利益の部分は度外視して、出来る限りの努力はする。

しかし保険の作り方では無理な場合もあるので、その際には自費の入れ歯を勧めるか、ある程度我慢してもらうしかない。

というところが実情です。

治療義歯と本義歯の二つが必要なわけ

合わない入れ歯を使われていた場合、歯ぐきに傷があったり、炎症があったりします。

またそういった場合、なんとか痛くないように、あるいは入れ歯が落ちないように噛もうとして変な噛み癖がついていたりすることが多いです。

それらの結果として、体自体が歪んでいることすらあります。

その状態で型採りをして最終的な入れ歯を作ってもうまくいきません。

なぜなら、最初はうまく噛めていても、歯ぐきの傷や炎症が治れば、歯ぐきの形自体が大きく変化してしまいます。

また入れ歯が安定して痛く無く噛めるようになると、変な咬み癖がとれてきて噛み方そのものが変わったり、下顎の位置や頸椎その他体のバランスも変わっていきます。

本義歯を入れてからさらに患者さんの状態が変わるということです。

ですから、これらの変化に対応するものとしてリハビリ用の治療義歯を用いることが必要になってくるわけです。

それにより、口の中や周囲、あるいは体全体に今までたまった歪みを取り、安定して本義歯を作れる状態にまでもっていくのです。

入れ歯の力

マウスピースの項でも述べましたが、噛み合わせにより様々な全身症状が改善する場合があります。

分かっている人間にとっては当たり前のことなのですが、ただそれを目的として歯科治療を行うとこれは法律的に問題になります。

だからあくまでも我々は噛み合わせのバランスを取るだけで、その結果として何かが治ったのならそれはそれで良かったですね、という話です。

入れ歯、特に総入れ歯の場合、噛み合わせはすべて歯科医師が作るわけです。

それは時に感動的な変化をもたらすことがあります。

肩こりとか頭痛とか腰痛とかが良くなるのは日常茶飯事。

曲がっていた腰が真っ直ぐになり、しっかり歩けるようになる。

高かった血圧や血糖値が下がる。

そもそも何でも噛めていわゆる口福を味わうようになるので、顔の表情が違う。

当院でも初診時に杖をついてほとんど廃人のようにして入ってこられた方が、最後には目もしっかり開いて言葉もしっかり喋り、杖は使うもののスタスタと歩かれるようになるのを目の当たりにすると、入れ歯ってスゴイなぁとつくづく思うのです。

ちなみにその患者さんは保険の入れ歯です。

それでもきちんと作ればそうなる。

その方は体がすごく歪んでいたので本当なら自費で治療義歯から始めたかったところですが、そうもいきませんでした。

自費の入れ歯だったらね、人生変わりますよ、ホントに。

だって皆さん、もっと早くやってもらっとけば良かったっておっしゃるもの。

そのかわり、満足が得られないのならお金も頂けないということです。

 

ハイブリッド義歯について

これはいわゆるインプラントと入れ歯とをうまく組み合わせて作るものです。

どうしても入れ歯の安定が難しい場合、あるいは患者さんの要望が高いレベルの場合(楽器を演奏するとか、何があっても外れないようにとか)、インプラントを埋め込み、特殊な装置で入れ歯とインプラントをつなぐ方法です。

これだとほぼ100%外れることがないし、噛む力もかなりのものです。

また下顎の骨が随分やせていて、いくら上手く作っても噛むと痛いという場合があります。

そういった時に、入れ歯が歯ぐきに向かって沈むのを支えてくれるように、インプラントを埋め込むことがあります。

この場合はインプラントを埋め込み、ただキャップをしておくだけですが、これだけで全く痛みなく硬いものが噛めるようになります。

これは当院でも時々やります。

インプラントを使わずに済めばそれに越したことはないのでしょうが、もっと上を目指される場合、あるいはそうでないとどうしてもあと一歩が上手くいかない場合には非常に有効な手段です。

良い入れ歯を作りたいがどこに行けばよいのか?

これすごく難しい問いです。

入れ歯が得意な先生は、ホームページにその旨を書いておられるでしょう。

自費の入れ歯の作り方にも様々な方法があり、どれが良いとは一概に言えません。

あと10年くらいすれば歯科界の中でかなり整理されてくるだろうとは思います。

インプラントを否定される先生もいらっしゃいます。

インプラントを上手く利用した入れ歯を作る先生もいらっしゃいます。

何が何でもインプラントだけで治療し、入れ歯など噛めるかい!というスタンスの先生もおられます。

入れ歯かインプラントか?

僕の考えでは、それはその患者さんの口の中の状況により、どちらがより長く良いバランスを保ちながら口の中で調和していけるか?によります。

また患者さんの出しているエネルギーも参考にします。

何となく、この人は入れ歯の方が良さそう、という場合もあるということです。

 

ホームページで大々的に入れ歯が得意みたいに書いていたけれど、実際に大金はたいて作ってもらったら全然噛めない、ということだってあり得ます。

かと思うと、ホームページすらない普通の町の歯医者さんが、ドエライ入れ歯名人だったということだってあるんです。

こればかりは何ともアドバイス致しかねます。