自費出版のカラクリ

昨日は三重県の方からわざわざ個人セッションを受けに来られた方がいらっしゃって、誠に有難い限りであります。

本日は早朝より名古屋の方にセミナー受講にいってきます。

愛知学院大学歯学部同窓会主催で噛み合わせについての講演があります。

実は来週もセラミックの講演を聞きに名古屋に行きます。

当然、日帰りですのでそういう意味では全然楽しくありません。

来週の演者は僕と医局の同期の先生で、彼も今や第一線で大活躍です。

たいしたもんだ。

 

さて、自費出版を扱っている会社にもピンキリございまして、有名出版社が自費出版部門を立ち上げているところや、自費出版専門のところまであります。

そして別の尺度ではほとんど詐欺まがいのことをやっている所から、非常に良心的なところまであります。

これは出版社の有名無名と関係なくです。

自費出版くらい合法的に有名な大出版社が明らかに詐欺みたいなことをやっている世界はないのじゃないでしょうか。

名前出したくて仕方がないですが、一応伏せてお話しましょう、僕の体験談を。

 

移転前の西塔歯科の待合室に「シャングリラからの伝言」を連載していって、いくつか原稿がたまった頃、新聞によく載る「あなたも本を出版しませんか?」という広告にしょっちゅう目がいくようになりました。

そんなある日、奈良駅前のよく行く本屋さんに某出版社の「出版原稿募集」のポスターが貼られていたのです。

それに合わせたように、そこの比較的目立つ棚にその出版社が出した本がズラリと並べられていました。

あれ?前はこの棚は違う本が置いてあったような気がするんだけど・・・・。

ここ、ポイントですよ。

「よし!」と決意し、原稿を見てもらうことにしました。

メッセージをまとめて本にしたいというのは、前から漠然と考えていたのですが、できれば自費出版ではなく出版社が全額負担する商業出版の形を取りたい、これは誰でもが思うことでしょう。

猿沢池近くのビジネスホテルで出版相談会と称して原稿を拝見しますとのこと。

一番に行きました。

出版用の完成原稿ではなかったので、とにかく持ち帰って検討しますとのことでした。

 

僕が今お話していることは、どの出版社においても概ね大差ありません。

相談会に持っていくのは、べつに完成原稿でなくても、極端に言えばアイデアだけでもOKなのです。

その出版社の謳い文句は次の通り。

①今回全国で募集する原稿の中から最優秀作品は当社が全額負担して出版し、場合によってはそれがTVドラマ化される可能性もあります。

②それ以外の作品は自費出版となります。

③当社は各書店に当社専用棚を確保しており、全国流通をお考えの方は発売より一か月間は全国各地の書店で必ず陳列されます。

④当社営業担当により万全の販売促進をいたします。

⑤原稿完成までのプロセスでは当社の編集担当が懇切丁寧にアドバイスいたします。何よりお客様に喜んでいただくことが我々の目標です。

等々

 

一週間もしないうちに封書で連絡がきました。

主には読まれた感想が書かれており、改善点も同時に列記されています。

僕にすれば、かなりの応募があったはずなのに、もう読んだの?という感じ。

今思えば、帰りの新幹線ですべての原稿を斜め読みしてるんですね。

それと気づかれないように、原稿の中にある文章を時々引用しては「〇〇と表現されている当たりが読者の心を打つであろう」と書いてたりするのです。

 

そのうちその時の担当の男性から電話がありました。

勘ぐりすぎかもわかりませんが、彼らの渡す名刺の名前はどれも非常に印象的です。

〇〇元気とか〇〇誠実(せいじ)、〇〇心実(ここみ)とかね、要するに応募している人の信用を勝ち取るような名前ばかりなのです。

あれ営業用の偽名とちゃうかな?

早く出版を決意してくださいという内容です。

見積もりは確か200万を少し超えていたと思うのですが、返答期限が今週末です、などと言ってくるわけです。

それを超えると、次の応募が半年以上先になりますよ。

その時はまた一からの受付になるそうです。

最優秀賞になって云々というのは、あくまでもその自費出版の契約に応じてから初めて選考の対象になるという話なんですね。

僕は「じゃあ今回は止めておきます」と答えました。

いくらなんでも200万は出せない。

すると向こうは少し考えて、「では今月一杯までお待ちしますので、よく検討してみてください」との返事。

そしてまた電話がかかってきたんだけれど、僕の返事は同じです。

そこで話は終わったかにみえました。

が・・・・

 

しばらくしてまた彼からの電話。

「西塔さん、実は今、わが社は年度末でして編集部にも今年度中に使いきらなくてはいけないお金が少し余っているのです。ですから今回は特例として西塔さんの出版費用に70万ほど当社から補助をさせて頂き、西塔さんのご負担はおよそ150万くらいで収まりそうです」

僕はその頃、自費出版についてあれこれ情報収集していました。

そしてそのカラクリについて質問をぶつけてみたのです。

詳しくは後ほど説明しますが、明らかにおかしな点がある。

そこで

「僕は今回遠慮しますから、その剰余金はどうぞ他の方のために使ってあげてください」

「そうですか、残念ですが仕方がないですね」

といって数日後、提出した原稿が返却されてきました。

 

分かりますかね?全体の流れが。

まず相手の原稿をすごく認めてあげて有頂天にさせる。

そして早め早めの期限を提示して、とにかく焦らす。

冷静に考える時間を与えないということです。

その出版社では原稿を出してから製本までに最低でも5カ月くらいかかると言われましたが、普通ね、2カ月もあれば十分です。

ただし、手の入れる余地があまりない完成原稿ならという前提ですが。

多くの場合、文章はメチャクチャ、何を言いたいのかもわからない、おまけに読み手のことを考えずに作者本位で話が進んでいく、こういった原稿が多いそうです。

自費出版とはいえ、誰かに読んでもらおうと思って作るわけです。

であるならば独りよがりの文章など読まされる方はたまったもんじゃありません。

自費出版される本の多くが本屋さんで誰の手にもとられないのは、内容と表現力の稚拙さと装丁のダサさにあるようです。

 

僕が以前、現行の「シャングリラからの伝言」の原稿をある医学関係の本を多く出している出版社に持ち込んだ時に褒められたのは、その文章の的確さとわかりやすさです。

これはお世辞ではないことは僕が一番よく知っています。

医局に在籍していた当時はそれなりに論文を読んだのですが、たとえ書いているのがどこかの大学の教授であったとしても、書いてる文章が全然ダメというのが多かったのです。

 

さて、自費出版のカラクリの真髄をお教えしましょう。

あなたが刷った本を全部自分のものにし、知り合いに配るというのであれば何も問題は起きません。

出版社は単に製本にするまでのわずかな手数料を取るだけだからです。

前述の会社はそんな仕事引き受けるのかな?

問題は全国の書店に流通させたいというときに発生します。

その場合ISBNコードというのを取得する必要があります。

そして取次店へのお願いやネット販売の段取り、新聞各社などへの寄贈や書評依頼等々の手数料、在庫を置く倉庫料、印刷、製本にかかる費用などがおよそ請求書の内訳です。

自費出版において全国流通させる場合、最低でも500部、通常は1000~1500部作ります。

かかる費用はその本の体裁にもよりますが、およそ70万から200万で各社まちまち。

高いところでは300万というところもあります。

要するに出版社は自分のところの会社ブランドで本がプッシュできるよと言ってくるわけでして、

例えば幻冬舎などは自費出版部門として幻冬舎ルネッサンスというのをたちあげていますが、そういう有名出版社になると必然的に高くなる勘定です。

ちなみに出帆新社に僕が支払ったお金は1200部刷って著者引き受け分700冊、全国流通分500冊でおよそ80万円台。

全国流通分の印税は5%。

 

皆さん、本を出したら印税で儲かると勘違いされるんですが、少なくとも自費出版においては儲けなんて考えちゃダメよ。

一般的には無名の作家の印税は2%、そのうち運良く増刷されるようならそれに応じて3%から5%。

印税が10%なんてのは超有名売れっ子作家でしかあり得ません。

ですから自費出版をお考えの方は、自分の思いを伝えることに自分がお金を出しているんだというくらいのスタンスじゃないとあかんでしょうなぁ。

出版費用の何割かでも回収できたら御の字です。

「シャングリラからの伝言」の印税はまだ頂いていませんが、手元の本の売り上げはすべて「そらぷちキッズキャンプ」「ワンネスユニバーシティ」「本の広告宣伝費」に使っており、私したお金は一銭もありません。

 

同じように1000部刷って、出帆新社と有名出版社ではその費用が200万も違うのですから、それだけ出帆新社は利潤が少なく、大手は必要以上に儲けているわけです。

この必要以上というところがミソなんですが、簡単に裏を見抜く方法として次の質問をしてください。

「刷った1000部の内、何冊が著者のものになりますか?」

普通は50冊とか多くてもせいぜい200冊でしょう。

ひどいところになると20冊という場合もあります。

意味わかりますか?

 

僕も手元にある50冊が完売したら、あとは出帆新社から買うことになります。

その時には8掛けで売ってくれる契約になっています。

ところが最初の著者分が50冊の場合、それがなくなればあとは全部7~8掛けで出版社から買わないといけないわけです。

要するに僕であれば大まかに言って、著者引き受け分700冊に対して80万を支払ったと、考えるのですね。

それが1000部刷って著者分50冊、300万の費用がかかったとすると、50冊に対して300万払っているわけです。

それ以上欲しければいくら割引とはいえ更に出版社にお金を払わなければいけない。

出版社は7掛けで出したところで儲けは出ます。

そして全国流通分で売れたものに関する儲け率、これは笑う位大きいです。

それに対して払う印税はごくわずか。

僕の持ち込んだ出版社で言えば、最初の1カ月は確かにそれなりに書店に並びますが(書店の棚を出版社が買い取っている)、そのあとは取次店を通して返品され出版社の倉庫に眠り続け、契約書で交わした期限が来たら全部著者に買い取らせるか、保管料を請求され続けるのです。

ひどいもんでしょ?

でもこういう契約が横行しているのが自費出版の世界であり、僕が合法的犯罪だと指摘する所以であります。

なぜ合法的なのかというと、そりゃ依頼者がそういう契約書に判子を押しちゃってるからです。

このカラクリがわからないまま、急かされて契約しちゃうんですね。

急がす出版社は見送りなさい。

絶対に良いことありません。

 

昨日述べました、なぜ出版業界の中での売り上げ第一位が自費出版なのか、もうおわかりでしょうか?

そしてなぜ猫も杓子もそこに群がるのか。

今や〇〇新聞出版部とかも「本出しませんか?」みたいなことを自社の新聞広告に載せてる時代です。

新聞の出版部となると信用しちゃうんだろうなぁ。

とにかく魑魅魍魎の世界です。

そして当然ながら良心的な(多くは小さな)出版社も数多く存在します。

 

今回例に挙げた出版社のやり方が間違っているということではありません。

ただ、彼らは金儲けのために仕事をしているだけの話です。

大切なことは、もしあなたが自費出版を考えているのなら、その契約内容をきちんと把握した上で契約しなさいということです。

納得の上なら、良いも悪いも僕が口をはさむことじゃありませんから。

2011.6.19

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